パチリ。目が合ったのは間違いではないだろう。
鳴の勧誘を同じく断り、だが野球には今後関わらないと決めたはずの幼馴染は、俺と異なる制服で、何故か異なるベンチにいた。
 もう1年半も経つというのに、未だにそいつが野球部にいる事実に納得できずにいる。様々な感情を押し殺して交わした昨夜のメールは、突如として返事が途絶えた。
 マネージャーが寝落ちをしてしまう程、薬師高校は部活に勉学に忙しいのだろうか。その心配は目の前に繰り広げられた光景を前に吹き飛んでしまうこととなる。

 ―…顔が近えんだよ、馬鹿。

  マネージャーと部員が話すことなんて当たり前だけれど、それにしては距離が近すぎる。たしかに、向こうのエースは人好きするような人物だけれど、まさか気づいてないとでも思ってるんだろうか。俺とつぐみが話していた時や、試合が被った時なんかに、わざと割って入られることや、見せつけるように近くにいることを。
 ……いや、未だに俺の好意に気付かない女だ。狙われてると気付いていないのも有り得ない話ではない。

  言いたい事は沢山あった。薬師高校を選んだのはいいとしても、何故野球部に入ったのかとか、男に気安く触らせるなよとか、肩に腕なんか回されてんじゃねえとか、ベンチで泣きそうな顔してんじゃねえよとか、スカートが短けえよとか、もっと、沢山。だけど、そのひとつすら口にする事は出来ない。今、あいつの隣にいるのは俺じゃない。
 だとしても。
  ――隣にいなけりゃ、いりゃあいいんだろ。
  帰りの用意をしているチームメイトを横目に、エナメルバッグから携帯を取り出す。メールを開いて、昨日の続きを再開すべく文字を打った。
 次正月に帰省すんだけど。
 送信ボタンを押しながら、見逃してたまるか、と心の中で呟いた。


20xxxxxx / どうしようもない距離
(御幸 真田 成宮の□御幸編)