確かに、あの御幸と成宮の幼なじみって知らなくたって篠村に声を掛けたかって聞かれるとそりゃわからん。ても篠村があの二人の幼なじみだから惹かれたんじゃねーよ。
 強引にマネージャーになってもらったわけだけど、篠村は確かに目が肥えてた。
見てれば見てる程、つぐみにとっての「野球」は御幸と成宮なんだなと思い知らされる。歩んできた道が長いから仕方ねえんだけど。時々、俺やチームがつぐみの予想を超えるくらい良いプレーをしたら目を輝かせるのがかわいくて、その目が見たくて、いつの間にか好きになってたんだ。
 グラウンドを見つめる横顔、白球を追う純粋な瞳、願うように震える固く握った両手、そういうの全部が俺の心を掴んで離さなかった。
 もう正月か、と部室内のホワイトボードを眺めながら、限られた休みを数える。

「なあ篠村」

 ふと振り向けば、篠村が「なに」と部誌から視線を逸らさず答えた。耳に掛けた髪が少しだけ落ちて顔にかかっている。

「正月休みって何してんの?」
「何って別に……、面白い事なんてしてないけど。寝て、お餅食べて、とか?」

 俺の答えにはペンすら止めなかったのに、正月休みの予定は指折り数えるもんだからその素っ気なさにガクリ、と心の中だけで肩を落とす。手に入らないものほど欲しくなるってどっかの誰かが遥か昔から歌ってきたフレーズが今ならよくわかると思った。
 来年の春には出会って三年になるのに、一度たりとも俺は野球以外で篠村の視線の中に入れて貰った気がしない。部員とマネージャー、たった三年、は幼なじみとその幾年にいつまで経っても敵わないのだ。
 ――御幸と成宮、正月休みに帰ってくんじゃねーの。
 あまりに蚊帳の外だから、意地悪な質問が思い浮かぶと同時に、それを発して篠村の機嫌を損なってしまうのもありありと予想出来た。口から出かかったところでその言葉をぐっと飲み込む。篠村にとっても、そして、俺にとってもこれはキラーフレーズだ。

「なあ篠村」

 再び部誌に取り掛かろうとした篠村にそっと近付き、テープルに手を付く。顔に俺の影がかかった。

「正月、初詣一緒に行かね?」
「……なんで?」
「なんでってそりや、篠村に会えないとサミシーから」

 そう、言葉を使うなら正しい方法を。正攻法で、真っ向勝負がお好みなのだ、このマネージャー様は。それに俺は腐っても薬師のエースだし。時には泥臭くたって勝利を手にするためになら何だってするよ。

「……いいけど」

 顔に落ちた髪を耳の後ろに戻しながら、つぐみが言う。それはツンとした響きだったけど、ベンを滑らせる手が止まっていた。心なしか耳が赤く染まっている気がするのは、俺の希望的観測でしかないのだろうが。

20xxxxxx / 僕ら歩けば運命に出会う
(御幸 真田 成宮の□ 真田編)