一体、何本の電車を見送っただろう。冷たいはずの駅のベンチはわたしの体温を奪ってすっかりぬるくなってしまった。右の手のひらは緊張でじんわりと汗ばんで、季節外れにも程があると思う。
告白された後、とにかく、と懇願し手首を掴む手は外してもらえた。でもその代わり、指と指が絡むように手と手が繋がれて、そのまま、わたし達はしばらく無言で来ては去っていく電車を見つめていた。
「……真田、」
「なに?」
何か言わなくちゃと思っておもむろに呼べば、真田はすぐに返事をしてくれる。
「…そ、んな嬉しそうな顔しないで……」
「だって俺の事考えてんだなーって思ったらさ」
「わかってるなら困らせないで……」
細められた眼差しにぎゅっと胸が苦しくなる。呼んだら返事をしてくれる距離って、こんなに嬉しい事なんだ。遠くなった幼馴染たちの顔が頭の片隅にチラつく。
「篠村さ、他に好きな奴いる?」
「……いたら、手なんて繋いでないよ」
「そっか」
空気を間に挟んで繋いでいたような手が明確に真田からきゅうと握られる。特別わたしの手は小さいわけでもないのに、真田と比べると子供のようだ。
「なあ、俺待つから」
「え?」
「篠村が俺の事好きになってくれるまで、待つよ」
心の準備ってヤツ? 茶化すように真田が言う。
「だから付き合って」
「……う〜〜……」
「ダメ?」
気づいてる。見透かされてる。わたしが戸惑ってること。押し切ってもいいのに肝心な所で優しさを見せるから、困る。でも逃がしてくれないから、ずるい。
「…………ダメじゃない……って、ずるいかな」
「マジ?」
「なんで驚くの、好きにさせてくれるんでしょ」
「……あ~、キスしてえ~~」
「なっ!?」
思わず繋いでいた手を離そうとしたけど、ガッチリ掴まれていて離れない。調子が狂う。真田の前じゃいつもこうだ。恋って、こんなにどうしようもなくなるものだったっけ?
「待つって言った!」
「待つとは言ったけど引くとは言ってない」
「屁理屈!」
「だってずっと好きだったんだぜ?」
わたしがぐ、と推し黙れば真田は楽しそうにケタケタと笑った。その余裕が恨めしいような、好きだと思う、ような。
思えば、出会った時から真田にはペースを乱されていたんだった。野球とはもう関わらないって決めたのにマネージャーになったり、それを楽しいと思ったり。燻っていた恋にも満たない幼なじみへの感情に決別したり。塗り替えられていく、真田といると。でも嫌じゃない。こんな自分がいるなんて、3年前には想像も出来なかった。きっとこの手を握っていたら、どこまででもいけるのだろう。
20xxxxxx / 僕ら歩けば運命に出会う