共通点は、たぶん人間であることくらい。
 沈黙を破るように、自販機の取り出し口に選んだジュースの落ちる音が響く。

「え、えーと、も、もう一度……」
「はあ?一回で聞けないなんてその耳は何のために付いてんの?だから、好きだって言ってるじゃん」

 目の前の人物とその二文字がどうにも結び付かなくてばしばしと瞬きを繰り返す。す、好き………、ライクじゃなくて、ラブのほうだなんて、どこの誰が信じられるというのだろう。
 成宮鳴はそんなわたしの様子に、不満そうに唇を尖らせながら自販機に右肩を預けてもたれかかった。

「……何故………」
「理由とかいる?」

 怖っ。さすが全国の野球少年達ならびにテレビに中継された事もある人間である。実際目の前でみるナルミヤメーはイメージよりも案外大きく、顔を見ようとすると自然と見上げる形にな……るものの、怖すぎて見ようとも思わない。何が都のプリンスだ。魔王様と言っても過言じゃない面持ちに、カツアゲされてもいないのに財布を胸元で強く握った。だってどうみてもこんなの、告白の雰囲気ではない。

「逆に聞くけど、俺が彼氏だったら何か不満とかあんの?」
「ふ、不満というかですね…」
「好きな奴いる?それって俺よりいい男?」
「いや……」

 刺すような視線が痛い。野球部の皆さんはこの男を前に口答えなどできるのだろうか…、と思わずひとりも知らない野球部員に同情してしまった。
 それにしても、言葉ひとつだって交わしたことだってないのに、何がどうしてこの成宮鳴――将来はプロ確実と言われているらしい――の御眼鏡にかなったのがわたしなんだろう。この人の彼女になりたい女の子なんてゴマンといるはずだ。実際、友達だって野球部の試合は欠かさず見に行っているし。わたしは野球が何人でするものなのか定かでもないから、出席日数に関わらない限り行ったことも無いし。(あと国友先生がとても怖い)

「……クリスマス」
「く、クリスマス??」

 成宮鳴の、半袖から伸びる腕はこんがりと焼けていて今この瞬間発せられた単語と似つかわしくなく、ついオウムのように同じ言葉を繰り返してしまった。あと数ヵ月後に迫ったくりすます、が、なんなんだ。わたしの命日というのだろうか。

「絶対プレゼント渡すし、大事にするよ。毎日メールもする。電話だってしたければ付き合うし、できるだけ大切にするから」
「え、ええ………」
「女の子ってそういうの好きなんじゃないの?それじゃ嫌? それに俺絶対プロになるし。玉の奥ってやつじゃん」
「い、嫌って言うか……」

 そんな暇あるのか?という疑問は置いておくにしても、表情と言葉が合ってなさすぎる。今、わたし、付き合うメリットを説明されている?都のプリンスに?そんなに言うほど、この人にとって、わたしは手に入れたい人物なのだろうか。今、初めて言葉を交わしたのに?

「しょうがないな、じゃあ庭付き一戸建ても付けるけど、それでもダメ?」

 どうやら、成宮鳴はひとつの季節だけの付き合いだけでなく、未来も見据えてるらしい。そんな、まさか。
求められている返事はイエスよりワンなような気もするけれど、生温くなってゆくジュースが心配で、降伏の意も込めて首を縦に降るとようやくその日初めて成宮鳴が口の端を上げて笑った。その顔はまさしく王子と言っても、過言ではない、ような……、いやまだ恋とは認めた訳じゃないんだけど!今更シンデレラを夢見たって、御伽噺だってことぐらい知ってしまってるし。

20xxxxxx / インスタントロマンス(続き物になる予定でした)